刈谷と言えばこのお店!「穂高」
刈谷でのイベントということで、ずっと気になっていた「登山・スキー専門店 穂高」さんのところへご挨拶に伺いました。
店内は登山ウェアはもちろん、スキーやクライミングの道具も充実。私はエーデルリッドのアラミドコードスリングを購入しました。普段の行動範囲の登山ショップには売ってないので、「さすが穂高さんだなぁ!」と思ったのでした。
穂高さんの所在地・営業時間等はこちら!
高津ガイドによるお話「最新楽々登山術」
第一部は高津充於(たかつみちお)ガイドによるお話。
高津ガイドが大学登山部時代によく先輩から言われていた言葉は「早くしろ!」。そして国立登山研修所の講師になった今の立場で参加者に言う言葉も「早くしろ!」とのこと。
早くすることは、登山において大事なことです。
そしてこのお話のポイントは、「早くする」ことであって、「早く歩け!」では必ずしもない、という点です。
早くするための工夫:ザックのウェストベルトを取り外す
高津ガイドによる「早くする」方法の1つが「ザックのウェストベルトを取り外してしまう」というもの。
荷物を腰で支えるために推奨されるザックのウェストベルト。これをなくしてしまうことで、荷物を背負う、下ろすことにかかる時間が10秒程度短くなるとのこと(数値は記憶に基づいており、正確ではありません)。この1回あたりの10秒程度が、1日の登山の行程で8回ほど休憩するなら90秒近くの短縮になるわけです。
肩ベルトだけでは肩が痛いのでは…?
荷重を支えるウェストベルトを外したら、重さが肩に集中して肩が痛くなるのでは?
そんな声にも高津ガイドはこの一言で応えてくれました。
「我慢!」
そう、肩の痛さは我慢すれば良いのです。その分、行動が俊敏になるわけですから。
(「え、講演タイトルは『楽々登山術』だったのでは!?」と衝撃を受けたことは秘密です。)
私自身はプロの山岳ガイドの方と歩く機会に恵まれているのですが、多くのガイドはウェストベルトをしていないのです。万が一の時にはザックをさっと下ろして荷物を取り出すためにもウェストベルトは邪魔なのかもしれません。もちろんガイドの方は身体も頑健で山を歩く技術も卓越しているため、荷物を支えるためのウェストベルトが不要ということもあるでしょう。
早く行動することのメリット、早くするためのアイデア
高津ガイドのお話は冗談も混じえて会場は笑いに満ちていましたが、登山に活かせるような実践的な内容でした。
登山で行動が早いことは安全に繋がります。
- 時間的余裕があることで心にも余裕ができ、事故を起こしにくい(焦ると分岐を見落としたり、足元不注意でつまづくことにも繋がります)
- 事故が起こったとしても早く救助されやすい(夕方に行動不能になったとすると、二次遭難を防ぐために救助活動は翌朝からになることも)
- 写真を撮るなど、のんびりする時間を取れる
良いことばかりです。早くすることによるデメリットはありません。
やまスク的にも考えましたが、ウェストベルトを取り外す以外にも早くするアイデアはいくつもありますね。「早く歩く」「体力をつける」などは除いても、以下の通りです。
- 行動中の脱ぎ着が減るよう、気温・気候に合わせた服装を用意する(余分なウェアを用意しないことは軽量化にも繋がります)。
- ご飯:火を使って湯を沸かす時間を削減するため、保温ボトルにお湯を入れて持ってくる。
- よく取り出すモノはザックの上のほうに入れておく。小さいモノはザックの雨蓋に入れておいてすぐにアクセスできるようにする。
- 負荷を掛け過ぎない適度なペースで行動し、休憩時間は短くする。(息があがるほどのペースで歩くと疲れ切ってしまって休憩も長くなりがちです)
佐藤ガイドによる「最新海外登山報告」
第二部は佐藤裕介(さとうゆうすけ)ガイドによるインド・ヒマラヤの「セロ・キシュトワール」(6,200m)北東壁の初登に関するレポート。
佐藤ガイドによるお話も、「早さ」の重要性について示唆に富みます。
天候悪化は確実。いかに早く登頂し、下山するか
セロ・キシュトワール北東壁は未登ルートということもあり、情報がない中、現地で高度順応しつつ情報収集。メンバーは佐藤ガイドの他に、鳴海玄希さん、山本大貴さんの合計3人。
登頂に向けてアタックするも、天候は2日後ぐらいに悪化する予報。「早さ」重視で登頂し、天候が悪化しきる前に前進キャンプ地(ABC)まで戻ってくる計画。
早さのためには、睡眠時間も削る。
佐藤ガイドのWebサイトによると、「アタック中の3泊全てを合計しても睡眠時間は9時間。14時間行動後、20時間以上の行動が2回も続いて、耐久力が試される厳しい登攀でした。」とのこと。
夜間行動は当たり前で、5,700m地点のキャンプ地(このテントの写真の斜め加減が、このルートの難しさを表しています)から18時間苦労しながら登頂するのが22時頃。下山は懸垂下降(ABCまでの合計は32ピッチ!)を繰り返すも、夜中にコルでビバーク。
その後雪が降り、スノーシャワー、徐々に雪崩へと変わっていき、悪天候に捕まります。雪崩を避けるルートを探しつつ、また一泊。
翌日はなんとか降りきりABCに到達するも、この2日間で降った雪は1.5mほどで、ABCが雪に埋もれて見つからないというハプニング!佐藤ガイドは厳冬期黒部横断の経験者で、「黒部は世界有数の豪雪地帯だが、ここでもこんなに雪が降るとは…」と驚いたそうです。
その後ABCを発見。あとはテントを掘り出して、ポールを修復して一泊すれば今回のチャレンジは成功も同然!(この模様を捉えた動画は、達成感と安堵感で皆さん冗談交じりのすごく明るい雰囲気で、見ていてニコニコしてしまいます)。
と思いきや、そうはいかなかったのです。
テントを揺らす雪崩の爆風、湿雪1.5mのラッセル
ABCの設置場所は、当然雪崩などの影響がない箇所を選んだはずでした。が、疲れた身体を休めていると爆風がテントを揺らしたのです。それは雪崩の余波でした。
ここまで9時間の睡眠で行動してきて、最後の最後、安全と思われたABCで雪崩の恐れ。疲労困憊の身体に鞭打ってABCの移動を決めるも、外は湿った雪で深さはは1.5m。当然ラッセルしても遅々として進まず、水平方向で200m行くのに4時間かかったとか。しかもそれは雪崩の恐怖に怯える暗闇の中。想像もできません…。
やっと安全な岩の側にたどり着き、そこでやっと休息できたとのこと。
翌日からは天候は回復し、今度こそ本当に下山できました。
初登の成功の秘訣は、「早さ」とそれを実現するためのトレーニング
佐藤ガイドによると、今回の成功は、高津ガイドのお話の通り、早い行動がキーだとおっしゃっていました。
悪天候に捕まる前に登り切るスピード、雪崩にABCが飲まれる前に降りるスピードが重要です。
もちろんこの早さと体力を実現するために、強度のトレーニングが必要なようで、佐藤ガイドによると、「2日で84ピッチ」「1日50ピッチ」といったクライミングのトレーニングを行ったこともあるとのこと。
(1日50ピッチということは、1時間あたり2ピッチ登り、しかもそれを朝から深夜までやるということですね、その体力・集中力には「すごい」の一言です)
追記:12/4(火)に名古屋駅にて佐藤ガイドのトークショー開催!
佐藤ガイドのセロ・キシュトワール北東壁 初登のトークショーが12/4(火)18:00から好日山荘名古屋駅前店内にて開催されます!
まだ席はあるようです。18時からということで、お仕事のある方は早帰りもしくは午後休を取得してぜひご参加ください!
詳細は以下ページより。